「経理担当が急に入院したら、今月の支払いは誰が処理できるのか」。
従業員15~80名の会社で経理担当が1人、または1人とパート1名で業務が回っている場合、こうした不安を抱えたまま日々の業務をやり過ごしていないでしょうか。
少子高齢化により人手不足が慢性化し、経理担当の退職や休職が起きても、すぐに代わりの人材を採用できる環境ではなくなっています。
求人を出しても応募が集まらないことも珍しくありません。
この記事では、業務自動化の構築設計で使っている頻度・定型度・事故コストの判定基準をもとに、一人経理が抱える4つのリスクの整理と、人を増やす以外の備え方を解説しています。
一人経理の4つのリスク
一人経理が抱えるリスクは、大きく4つに分類できます。
業務が止まるリスク、チェック機能が働かないリスク、ミスの発見が遅れるリスク、退職時に引き継げないリスクです。
どのリスクが先に表面化するかは、月次業務の量や取引先数によって変わり、経理担当が長期不在になった経験がない会社ほど実感しにくい種類のものもあります。
まずは自社が4つのうちどれに近いかを、次の4項目ごとに確認してください。
不在で業務が止まるリスク
経理担当が不在になると、支払い、入金確認、給与処理といった、毎日または毎月動かさなければならない業務が止まります。
たとえば従業員30名規模の会社で経理担当が1人しかおらず、その担当者が急な入院で1か月不在になった場合、振込データの作成方法や承認ルートを他の誰も把握していないと、取引先への支払いが遅延し、信用問題に発展することがあります。
給与の支給日に間に合わなかった場合は、社内の信頼にも直結します。
規模が小さいほど代替要員を確保しにくいため、このリスクは従業員数が少ない会社ほど深刻に効いてきます。
チェック機能が働かないリスク
経理担当が1人だと、入力した内容を別の人が確認する体制が作れません。
会計処理では本来、入力者と承認者を分けるダブルチェックが不正や誤りの抑止になりますが、1人で完結する体制ではこの仕組みが機能しません。
たとえば振込先口座を誤って登録した場合や、実在しない取引先を追加して支払いを行った場合でも、他に気づく人がいなければそのまま処理が通ってしまいます。
悪意がなくても、疲労や思い込みによる入力ミスがそのまま決算数値に反映されるリスクは、1人体制では常に残り続けます。
ミスの発見が遅れるリスク
チェック機能が働かないリスクと近い性質を持ちますが、こちらは気づくタイミングそのものが遅れることに焦点を当てたリスクです。
月次の試算表を作る作業まで1人に集中していると、入力ミスや計上漏れが翌月・翌々月の決算作業で初めて発覚することがあります。
たとえば消費税の税区分を間違えたまま数か月分の仕訳を入力していた場合、決算直前にまとめて修正が必要になり、通常業務と並行して大量の修正作業が発生します。
発見が遅れるほど修正コストが積み上がるため、月次のどこかでミスを検知する仕組みがないこと自体がリスクになります。
退職時に引き継げないリスク
経理担当が退職や異動を決めた時点で初めて、業務の全体像を把握している人が社内に他にいないことに気づく会社は少なくありません。
たとえば請求書の処理手順、振込の承認フロー、決算時の勘定科目の使い分けといった知識が担当者の頭の中にしかない状態で退職日を迎えると、後任者が同じ精度で業務を再現できるまでに数か月かかることがあります。
退職の意思表示から実際の退職日までの期間は限られているため、引き継ぎ資料の作成を退職が決まってから始めても間に合わないケースが多くあります。
「人を増やす」以外の備え方
一人経理のリスクに対する典型的な対策は、担当者を増員することです。
ただし増員には採用コストと教育期間がかかり、求人を出しても応募が集まらなければ実行できません。
ここで示す備え方は、増員ではなく、『人にしかできない業務を減らし、担当者が不在になっても影響が小さい状態を作る』という発想です。
判断や例外対応が必要な業務は人が担当したまま残し、頻度が高く手順が決まっている定型業務を自動化に置き換えることで、1人が抱える業務量そのものを圧縮します。
定型業務の比率を下げておけば、担当者が数日から数週間不在になっても、自動化された部分は動き続けます。
結果として、退職や休職が起きたときに業務が完全に止まるリスクを避けられます。
外注という選択肢もありますが、経理データを社外に渡す抵抗感や、月次の固定費が増える点がネックになる会社もあります。
外注については後述の「自動化に向かない経理業務」で改めて触れます。
属人化そのものの解消手順は、次の記事で棚卸しから自動化までの順番を整理しています。

経理業務のどこから自動化するか(判定基準表)
どの経理業務から自動化すべきかは、頻度・定型度・事故コストの3つの軸で判定します。
頻度が高く手順が毎回同じ、つまり定型度が高い業務は自動化の効果が出やすく、逆にミスが起きたときの被害が大きい、つまり事故コストが高い業務は、自動化後も人によるチェックを残す設計にする必要があります。
経理業務にこの基準を当てはめると、次の3つが優先度の高い候補になります。
経理業務全体の自動化の始め方は、次の記事でより詳しく整理しています。

| 業務 | 頻度 | 定型度 | 事故コスト | 自動化の優先度 |
|---|---|---|---|---|
| 請求書の受け取りと転記 | 高い(日次~週次) | 高い(フォーマットが概ね決まっている) | 中程度(誤転記は後で修正できる) | 高 |
| 入金消込 | 高い(日次~週次) | 中程度(表記ゆれがある) | 中程度 | 中~高 |
| 月次集計とレポート | 中程度(月次) | 高い(計算式が固定) | 低い(社内共有物のため) | 高 |
請求書の受け取りと転記
請求書の受け取りと転記は、頻度が高く手順もほぼ固定されているため、自動化の優先度が最も高い業務です。
たとえば月間50件の請求書をメールやPDFで受け取り、会計ソフトへ手入力している場合、AI-OCR(画像から文字を読み取る技術)を使って金額・取引先名・日付を自動で読み取り、会計ソフトへ転記する仕組みに置き換えられます。
1件あたり5分かかっていた入力作業が1分程度に短縮できたという試算もあり、月50件であれば月あたり3時間強の作業時間が削減できる計算になります。
ただし手書きの請求書や、フォーマットが取引先ごとにまちまちな場合は読み取り精度が下がるため、対象を絞って始めるほうが失敗しにくくなります。
入金消込
入金消込は、銀行の入金データと請求データを突き合わせて、どの入金がどの請求に対応するかを確認する作業です。
取引先名の表記が銀行明細と請求書で異なる、複数の請求をまとめて振り込まれる、といった表記ゆれがあるため、請求書処理ほど単純には自動化できません。
ただし金額と取引先名を条件にした一次突合を自動化し、一致しなかった分だけ人が確認する設計にすれば、全件を手作業で照合する場合と比べて確認対象を大幅に絞り込めます。
表記ゆれのパターンが多い取引先が一部に偏っている会社では、まずその取引先だけ自動化の対象にする進め方が向いています。
月次集計とレポート
月次の試算表や経営会議用のレポート作成は、計算式や集計方法が毎月ほぼ同じであるため、自動化に向いています。
会計ソフトから出力したデータをスプレッドシートに取り込み、部門別・勘定科目別の集計とグラフ化までを自動化しておけば、担当者は数値の確認と異常値のチェックに専念できます。
毎月2日かけていたレポート作成を、データ取り込みと集計の自動化によって半日程度に短縮できるという試算もあります。
ここでの数値は集計の元データが正しいことが前提のため、請求書処理や入金消込など上流の自動化を先に済ませておくと精度が安定します。
実際にAI-OCRで請求書処理を自動化した想定ケースは、次のケースで詳しく紹介しています。
自社のどの業務がこの3つに当てはまるか判断に迷う場合は、 個別相談 で一緒に棚卸しすることもできます。
引き継げる状態を作る手順
自動化を進める前提として、まず現状の業務を引き継げる状態にしておく必要があります。
自動化は定型業務の一部を置き換える手段であり、業務の全体像が誰にも把握されていない状態では、どこを自動化すべきかも判断できません。
次の4つのステップで、業務の可視化から自動化までを順に進めます。
Step1. 業務の棚卸し
経理担当が日次・週次・月次・年次で行っている業務をすべて書き出します。
「請求書処理」のような大分類だけでなく、「請求書を受け取る」「金額を確認する」「会計ソフトに入力する」のように作業単位まで分解すると、後の判定基準を当てはめやすくなります。
棚卸しには1~2週間、担当者に業務日誌をつけてもらう方法が実務的です。
Step2. 手順の記録
棚卸しで洗い出した業務のうち、手順が複雑なものから順に、操作画面のスクリーンショットと手順を対応させたマニュアルを作成します。
口頭での引き継ぎだけに頼ると、判断の基準やイレギュラー対応が抜け落ちやすいため、判断が必要な場面については「なぜその処理を選んだか」の理由も書き残しておきます。
全業務を一度に文書化しようとすると挫折しやすいため、事故コストが高い業務、振込や給与処理などから優先して着手します。
Step3. 定型部分の自動化
Step1・Step2で記録した業務のうち、頻度が高く手順が固定されている部分を自動化に置き換えます。
前述の判定基準表で優先度が高いと判定された請求書処理や月次集計から着手すると、早い段階で担当者の作業時間を圧縮できます。
自動化した部分は、マニュアルの該当箇所を「自動化済み、担当者が行うのは結果の確認のみ」と書き換えておくと、後任者が迷いません。
Step4. 止まったときの代替手順を決める
自動化しても、システム障害や外部サービスの不具合で処理が止まる可能性は残ります。
担当者が不在で自動化も止まった場合に、誰がどこまで手作業で代替するかをあらかじめ決めておきます。
たとえば「振込データの自動作成が止まった場合は、経理経験のある管理部門長が手作業で作成し、承認は社長が行う」のように代替の担当者と手順を具体的に決めておくと、不在時にも業務が完全には止まりません。
自動化に向かない経理業務
経理業務のすべてが自動化に向いているわけではありません。
判断や交渉が必要な業務、発生頻度が低く手順が毎回異なる業務は、自動化よりも人が対応したほうが確実です。
代表的なものとして、取引先との支払い条件の交渉、税務調査や監査への対応、イレギュラーな会計処理の判断が挙げられます。
これらは自動化に向かないというより、自動化で圧縮した時間を振り向けるべき業務と捉えたほうが実態に近くなります。
【よくある誤解】自動化すれば経理担当者が不要になる
以前は、経理の自動化というと入力作業を代行してもらう程度のイメージで語られることが多くありました。
現在では、定型業務を自動化した分だけ、担当者が判断業務やチェック業務に時間を使えるようになる、という位置づけに変わってきています。
一人経理の会社で自動化を進める目的は、担当者を減らすことではなく、担当者が不在でも業務が止まらない状態を作ることです。
自動化後も数値の妥当性を判断する役割は人に残るため、経理担当者そのものが不要になるわけではありません。
どうしても社内で対応しきれない業務量がある場合は、外注も選択肢の1つになります。
費用と内製化の分岐点については、次の記事で整理しています。

一人経理のリスクに、心当たりはありませんか。
「担当者が休んだら締め作業が止まる」「振込内容を誰もチェックできていない」「引き継ぎ資料が何もない」
少しでもお心当たりがあれば、お気軽にご相談ください。
現在、AI業務自動化に関するお悩みをお伺いする 無料の個別相談 を実施しています。
よくある質問
Q. 経理担当が1人ではなく2人いれば、これらのリスクはなくなりますか?
2人体制でもチェック機能が働くとは限りません。
同じ手順で入力し合っているだけでは、2人とも同じ思い込みでミスを見逃す可能性が残ります。
人数を増やすことより、判定基準表で紹介した定型業務の自動化と、退職時の引き継ぎ手順の整備を並行して進めるほうが、リスクの低減につながります。
Q. 自動化にはどれくらいの費用がかかりますか?
対象業務や既存の会計ソフトによって幅があるため、一律の金額は決まっていません。
記事内で紹介した請求書処理・入金消込・月次集計の自動化であれば、既存のスプレッドシートや会計ソフトの機能を組み合わせて始められる場合もあります。
費用感を含めた内製と外注の分岐点は、外注費用に関する記事で整理しています。
Q. 経理経験がない担当者しかいない会社でも、自動化から始められますか?
経理の知識よりも、現状の業務手順を正確に把握できているかどうかで自動化の進めやすさが変わります。
Step1の業務の棚卸しさえできていれば、自動化する部分の選定は判定基準表に沿って進められます。
判断が必要な処理まで自動化しようとすると失敗しやすいため、まずは定型度の高い業務に絞って着手してください。
Q. 引き継ぎ資料を作る時間が取れません。どこから手をつければいいですか?
全業務を一度に文書化しようとすると挫折しやすいため、事故コストが高い業務から優先して着手します。
振込、給与処理、税金の納付など、ミスが起きたときの影響が大きい業務のマニュアル化を最初に終わらせれば、最悪の事態は避けられる状態を早く作れます。
残りの業務は、自動化の判定基準表で優先度を決めながら並行して進めれば無理がありません。
Q. 自動化を始めてから効果が出るまで、どれくらいかかりますか?
対象業務の複雑さによって差がありますが、請求書処理のようにフォーマットが固定されている業務であれば、設定から数週間程度で効果を体感できる場合が多い、というのが目安です。
入金消込のように表記ゆれの調整が必要な業務は、運用しながら条件を調整する期間を見込んでおく必要があります。
一度に全業務を自動化しようとすると調整すべき例外が増えて時間がかかるため、優先度の高い業務から順に進めるほうが、結果的に早く効果を体感できます。