業務の属人化はどこから解消するか?棚卸しから自動化までの順番

業務の属人化はどこから解消するか?棚卸しから自動化までの順番

「マニュアルを作れ」と指示しても、作られないか、作られてもすぐに更新が止まる場合、原因は業務の設計側にあります。

可視化やマニュアル化、責任分散を順番に試しても、どこから手をつけるかの基準がなければ属人化は解消しません。

この記事では、属人化業務を影響度と代替困難度で仕分ける判定表と、マニュアル化より自動化を先に検討する着手順を整理しています。

なお、マニュアルやナレッジをためる基盤の作り方は別の記事に譲り、この記事はどの業務から・どの順番で手をつけるかの優先順位に絞って扱います。

属人化解消の着手を無料で相談する

属人化が解消されない本当の理由

属人化が解消されない理由は、担当者の意識ではなく、マニュアルを作る時間が誰の業務時間にも組み込まれていないことです。

「時間があるときに作っておいて」という指示は、現場では後回しにしてよい業務という扱いを受け、通常業務が忙しくなるたびに先送りされます。

結果として、属人化解消の取り組みは担当者のやる気に依存する精神論に回収され、同じ課題が退職や異動のたびに繰り返されます。

可視化、マニュアル化、責任分散、ジョブローテーションという定石は、どれも間違ってはいません。

しかし、どれから手をつけるべきかの判断基準がないまま提示されると、経営者は目につきやすい業務からマニュアル化に着手してしまい、影響の小さい業務に時間を使うことになります。

これから示す判定表と着手順は、この判断を補うためのものです。

【よくある誤解】マニュアル整備だけで解消できる業務の範囲

マニュアルを整備すれば属人化が解消するという考え方は、一部の業務にしか当てはまりません。

マニュアルは読んで理解して実行するという人の解釈を必ず挟むため、読み手の経験や理解度によって実行結果がぶれます。

かつては手順を文書に残すことが唯一の解決策でしたが、業務システムやワークフローツールが普及した現在では、判断基準を条件文に落とし込んで自動化できる業務が増えています。

例えば、経費精算の承認ルートをマニュアルに書いて周知するだけでは、新任の承認者が読み飛ばして誤った金額で承認してしまう事故が起こり得ます。

一方、承認ルートをフローに組み込んでしまえば、読み飛ばしという事故そのものが発生しなくなります。

まず全業務を4象限に仕分ける(判定表)

属人化解消の最初の一歩は、社内の業務を影響度と代替困難度の2軸で仕分けることです。

影響度は、その業務が止まったときに顧客や取引先にどれだけの損害が出るかを指します。

代替困難度は、担当者以外がその業務を今日から代わりにできるかどうかを指します。

この2軸を掛け合わせると業務は4つの象限に分かれ、それぞれで打つべき手が変わります。

象限

影響度

代替困難度

打つべき手

象限1

高い

高い

最優先。自動化を検討しつつ並行してマニュアル化する

象限2

高い

低い

優先度中。手順が単純なのでマニュアル化だけで解消できる

象限3

低い

高い

自動化の候補。人手をかけずに済む方法を探す

象限4

低い

低い

後回しでよい。影響が小さく代わりも立てやすい

例えば、請求書発行業務は影響度が高く、止まると取引先への支払いが遅れますが、代替困難度は低く、手順を見れば誰でも対応できるため象限2に入り、まずマニュアル化で解消できます。

一方、特定の取引先向けの見積作成のように、担当者の経験と勘に依存する業務は影響度も代替困難度も高く象限1に入り、自動化と並行したマニュアル化が必要になります。

経理担当者が1人しかいない会社は、経理業務の大部分がこの象限1に該当するケースが典型的です。

自社の業務をどちらに仕分けるべきか判断に迷う場合は、 個別相談 で一緒に棚卸しすることもできます。

解消の順番:自動化できるものはマニュアル化より先に自動化する

判定表で仕分けた後の着手順は、代替困難度が高い業務のうち判断基準が明確なものから自動化を検討し、判断に経験や勘が必要な業務だけをマニュアル化の対象にする、という順番です。

多くの企業が先にマニュアル化から着手するのは、マニュアルの方が着手のハードルが低く見えるためですが、自動化できる業務を先にマニュアル化すると、後から自動化した時点でマニュアルが不要になり、それまでの作成コストが無駄になります。

自動化を先に検討する理由は、自動化された業務は手順書そのものが不要になり、属人化が構造的に消えるからです。

この順番を守ると、マニュアル化に割く時間を、本当に人の判断が必要な業務だけに集中させられます。

自動化すると属人化が構造的に消える理由

自動化すると属人化が構造的に消える理由は、業務の手順がフロー上のロジックとして存在するようになり、実行するのに担当者の記憶や経験が不要になるからです。

自動化されたフローは条件と処理があらかじめ定義されているため、実行する人が変わっても結果が変わりません。

例えば、経費精算の承認ルートを、5万円未満は上長承認、5万円以上は部門長承認という条件でフローに組み込んでおけば、担当者が退職しても承認ルートを覚え直す必要はなく、フロー自体がルールを保持し続けます。

自動化に向く属人化業務の見分け方

自動化に向く業務の見分け方は、判断基準をもし何々ならこうする、という条件文で言い切れるかどうかです。

条件文で言い切れる業務は、担当者の頭の中にある判断ルールを外に出してフローに落とし込めるため、自動化の対象になります。

反対に、取引先ごとの過去のやり取りを踏まえて対応を変えるような業務は、条件が言語化しきれず、自動化ではなくマニュアル化と経験の共有で対応する必要があります。

見分け方の目安として、担当者になぜそう判断したのかを聞いたときに、数値や固定の基準で即答できる業務は自動化向きで、そのときの状況次第ですという答えが返ってくる業務はマニュアル化向きです。

マニュアル化が必要な業務の進め方

自動化の対象から外れた業務についてはマニュアル化を進める必要がありますが、多くの企業では「マニュアルを作れ」という指示だけが飛び交い、実際には作られないか、作られても更新されずに放置されます。

これは、マニュアル作成が通常業務の合間にやる別枠の作業として扱われているために起きる、仕組み上の問題です。

マニュアル化を実際に進めるには、完璧さを求めないこと、作成時間を業務として確保すること、更新のきっかけをあらかじめ決めておくことの3つの手順が必要です。

マニュアル化を進める3つの手順(完璧を目指さない・作成時間を業務時間に組み込む・更新のきっかけをルール化する)

Step1. 完璧を目指さない(A4用紙1~2枚から)

最初のマニュアルは、業務の全工程を網羅した完璧な手順書ではなく、A4用紙1~2枚に収まる範囲から作り始めます。

完璧なマニュアルを目指すと作成に数日かかる見積もりになり、着手そのものが先送りされます。

例えば、請求書発行業務であれば、使用するシステムの画面遷移と入力項目だけを箇条書きで残し、例外処理はイレギュラー時は担当者に確認という一文で済ませておき、実際に例外が発生するたびに追記していく方法が現実的です。

Step2. 作成時間を業務時間に組み込む

マニュアル作成が進まない最大の理由は、作成時間が業務時間として認識されていないことです。

手が空いたときに書いておいてという指示では、通常業務が忙しい月には確実に後回しになります。

月次の業務スケジュールにマニュアル更新30分のような時間枠をあらかじめ確保し、他の会議と同じように予定表に組み込むことで、作成が個人の善意に依存しなくなります。

Step3. 更新のきっかけをルール化する

マニュアルは作った時点で完成ではなく、業務のやり方が変わるたびに更新が必要になりますが、更新のきっかけが決まっていないと、変更点は担当者の頭の中にだけ残り、マニュアルは徐々に実態と乖離します。

更新のきっかけを、システムの画面が変わったとき、取引先から指摘があったとき、新しい担当者に引き継ぐときのように具体的な出来事で定義しておくと、更新作業が発生タイミングを待つだけの受け身の作業になり、忘れられにくくなります。

マニュアル化した内容を検索しやすい基盤にまとめる具体的な手順は、別の記事で扱っています。

社内規程やマニュアルをためるだけでなく、必要なときに引き出せる形にした構築例は、以下のケースで紹介しています。

属人化解消でやってはいけないこと

属人化解消の取り組みでやってはいけないことは、ジョブローテーションを唯一の解決策として位置づけることと、マニュアル化を全業務に一律で適用することです。

どちらも一見正しい方針に見えますが、実行すると現場の負担が増えるだけで解消が進まないパターンに陥ります。

ジョブローテーションを唯一の解決策にする

ジョブローテーションは大企業では機能しますが、従業員30~300名規模の企業では非現実的な場面が少なくありません。

人員に余裕がないため、担当者を異動させると異動元と異動先の両方の業務が同時に回らなくなり、結局は元の担当者に戻すという結末になりがちです。

例えば、経理担当者が1人しかいない会社でジョブローテーションを実施しようとしても、代わりに経理を任せられる人材が社内にいなければ、異動自体が実行不可能な計画で終わります。

ジョブローテーションは、代替候補となる人材と時間的な余裕がある業務に限って検討する位置づけにとどめるほうが現実的です。

全業務に一律でマニュアル化を強制する

影響度が低くすぐに対応可能な業務にまでマニュアル化の工数をかけると、本来自動化すべき業務や、判断が難しく厚く書くべき業務にかける時間が削られます。

属人化解消は一度に全業務を対象にしようとすると、判定表の作成だけで作業が止まり、実際の着手が進みません。

最初は影響度が高く代替困難度も高い象限1の業務を1~2件選び、そこで自動化とマニュアル化の両方を試してから、他の業務へ横展開する進め方が現実的です。

属人化解消の先にある会社全体でのAI導入の進め方は、別の記事で整理しています。


属人化業務の仕分けに迷っていませんか。

「どの業務から手をつければいいか分からない」「マニュアル化と自動化のどちらを先にすべきか判断できない」「ジョブローテーションを提案されたが自社の人員では回らない」

少しでもお心当たりがあれば、お気軽にご相談ください。

現在、AI業務自動化に関するお悩みをお伺いする 無料の個別相談 を実施しています。

よくある質問

Q. 従業員30名未満の会社でも同じ判定表と着手順で進められますか?

進められます。

判定表の考え方は業務の数や規模に依存しないため、対象業務が少ない会社ほど象限1に該当する業務を早く特定できます。

ただし人員が少ない分、自動化とマニュアル化を同時に進める余力が限られるため、象限1の業務から1件ずつ着手する進め方が現実的です。

Q. 判定表を作る作業自体は誰が担当すればよいですか?

各業務の実務を把握している現場責任者が一次案を作り、経営者や部門長が最終確認する分担が向いています。

現場から見た影響度や代替困難度と、経営視点で見た優先度がずれることがあるため、両方の視点を突き合わせる工程を挟むと精度が上がります。

Q. 自動化とマニュアル化のどちらを先にすべきか迷う業務はどうすればいいですか?

判断基準を条件文で言い切れるかどうかで判定します。

条件文で言い切れない場合は、無理に自動化を検討せず、まずマニュアル化で手順を明文化し、運用しながら条件が固まった時点で自動化を再検討する順番が安全です。

Q. マニュアル化の担当を専任で置けない場合はどうすればいいですか?

専任者を置かなくても、業務の担当者本人が月次のスケジュールにマニュアル更新の時間枠を確保する形で進められます。

担当を分散させる場合は、更新のきっかけとなる出来事の定義だけは全員で共有しておくと、誰が更新しても基準がぶれません。

Q. ジョブローテーションは完全にやめるべきですか?

完全にやめる必要はありません。

代替候補となる人材が確保できていて、時間的な余裕がある業務であればジョブローテーションは有効な手段です。

経理担当者が1人しかいない会社のように代替候補がいない業務では、ジョブローテーションより先に自動化やマニュアル化で属人化を解消しておく順番が現実的です。