想定ケース
ここでは、従業員50名の製造業で経理担当1名が月180枚の請求書を処理しているケースを想定します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種・規模 | 製造業・従業員50名 |
| 対象部署 | 経理(担当1名・総務兼任) |
| 対象業務 | 仕入請求書の受領~台帳転記~会計ソフト入力 |
お客様の状況と課題
仕入請求書は紙とメール添付PDFが混在し、約60社の取引先から月180枚届きます。
毎月20日締めで、締め後の3営業日に処理が集中し、経理担当の残業の主要因です。
現行の流れでは、開封して内容を確認したあとExcel台帳へ手入力し、さらに会計ソフトへ同じ内容をもう一度入力する二重入力で、1件に約12分かかります。
過去には転記ミスで支払金額を誤り、取引先への謝罪と再振込が発生しました。
以来ダブルチェックを挟んでおり、さらに時間がかかっています。
加えて、経理担当が休むと支払業務が止まる、完全に属人化した状態です。
実現したいこと
- 請求書の内容確認以外の手作業(転記・再入力)をなくす
- 締め後3営業日の残業をなくし、処理を平準化する
- 金額ミスが仕組みで防がれる状態にする
- 経理担当が不在でも「どこまで処理したか」が見える状態にする
改修の概要
現状は、届いた請求書を開封して内容を確認し、Excel台帳に入力したあと、会計ソフトへ同じ内容をもう一度入力しています。
この二重入力で、1件あたり約12分かかっている計算です。
改修後は、紙の請求書は複合機のスキャン、PDFは専用メールアドレスというように受領先を1箇所に集約します。
AI-OCR(紙やPDFに書かれた文字をAIが読み取り、データに変換する技術)が内容を読み取って台帳へ自動で転記するので、担当者の作業は金額と税区分の確認だけです。
1件あたりの所要は約2分で済みます。
確認が済んだデータからは、会計ソフトへそのまま取り込めるファイル(CSV形式)が自動で作られます。
人の仕事を「入力」から「確認」に変える改修です。
読み取り・転記・仕訳データの生成はすべて自動化し、支払事故に直結する金額確認だけを人に残します。
使用する技術構成
| 役割 | 使用技術 | 選定理由 |
|---|---|---|
| 現場の人が触る部分 | Googleスプレッドシート台帳 | 経理担当が普段使う画面のまま。ステータス列(未確認/確認済/取込済)で進捗を見える化 |
| 請求書の受け取り口 | 複合機スキャン+専用メールアドレス | 紙とPDFの受領経路を1箇所に集約。現場の新しい操作はほぼゼロ |
| 裏側の処理(読み取り) | AI-OCR(専用のクラウドサービス、または生成AIの読み取り機能) | 取引先名・請求番号・金額・税区分・支払期日を抽出 |
| 裏側の処理(転記・連携) | Google Apps Script(Googleスプレッドシート付属の自動化機能)またはPower Automate(Microsoftの自動化サービス) | 読取結果の台帳転記・会計ソフト取込ファイルの生成・エラー時の通知 |
| 会計ソフトへの受け渡し | ファイル取込(CSV形式) | 会計ソフトと直接つなぎ込む方式にしない。仕訳ルール変更時にファイル生成部分だけ直せる保守性を優先 |
効果試算
前提: 人件費単価2,500円/時(事務・経理職の職種別単価・福利厚生込み概算・推定)
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| 1件あたり所要時間 | 約12分 | 約2分(確認のみ) |
| 対応件数 | 月180件(年2,160件) | 同じ |
| 対応人数 | 1名 | 1名 |
| 月間工数 | 約36時間 | 約6時間 |
| 年間人件費換算 | 約108万円 | 約18万円 |
年間削減効果は約90万円(約360時間)と試算しています。
金額に出ない効果としては、締め後残業の解消、転記ミスの構造的な防止、処理状況が見えることによる属人化の緩和があります。
運用コストの目安(構成パターン別・推定)
| 構成 | ランニングコスト(目安) | 向いているケース |
|---|---|---|
| A. AI-OCR専用サービス型 | 月3~5万円(サービス利用料) | 精度とサポートを重視。帳票数が多い |
| B. 生成AI活用の内製型 | 月数千円~1万円(読み取り量に応じた従量制) | 運用コストを抑えたい。Google Workspace環境 |
| C. RPA併用型(RPA: パソコン操作を人の代わりに自動で再現するツール) | RPAのライセンス料に依存 | 会計ソフトがファイル取込に対応していない場合の代替 |
月180枚規模ならAかBが現実的です。
Bは運用コストが1桁安い代わりに、読取精度のチューニングと保守を内製(または保守契約)で持つ前提になります。
構築費用は対象帳票の種類や既存環境によって変わるため、個別にお見積りします。
リスクと対策
| リスク | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 取引先情報の外部送信 | 請求書データをOCR/AIサービスへ送る | 学習利用オフのサービス・プランを選定し、データ処理の扱いを契約で確認。選定基準を導入時に文書化 |
| 誤読み取りによる支払事故 | OCR精度は100%にならない | 全自動にせず「金額と税区分の人の確認」を必ず残す。明細合計と請求額の1円ズレは警告表示 |
| 電子帳簿保存法の保存要件 | スキャンデータの保存方法に要件がある | 保存先・ファイル名規則・タイムスタンプの扱いを税理士に確認してから運用開始 |
| 例外帳票で運用が崩れる | 手書き・FAXはOCRに乗らない | 「例外は従来通り手処理」と割り切り、例外用ステータスを台帳に用意 |
| 構築者の退職で保守不能 | 内製型の典型的な死に方 | 構成図・設定値・改修手順のドキュメントを納品物に含める |
導入の進め方と期間の目安
標準的には次の4ステップで、合計1.5~2ヶ月が目安です。
期間は推定で、既存環境と帳票の種類数によって変動します。
Step1. ヒアリング・現状把握(約2週間)
現行の台帳と会計ソフト、実際の請求書サンプルを拝見する。
読み取る項目と例外パターン(手書き・FAX等)を洗い出す。
Step2. 構築(約2~3週間)
受け取り口・読み取り・台帳・会計ソフトへの受け渡しを構築する。
実際の請求書データで読み取り精度を検証する。
Step3. 並行運用(1締めサイクル=約1ヶ月)
レイアウトが安定している上位取引先から始める。
従来の手処理と並行して動かし、精度を実測で確認する。
Step4. 本稼働
並行運用で問題がなければ切り替える。
以後の例外帳票は従来通りの手処理で扱う。
お客様にお願いすることは、過去の請求書サンプルのご提供、並行運用期間中の突き合わせ確認、経理ご担当者との週1回・30分程度の打ち合わせの3点です。
業務を止める切り替え作業はありません。
この構成が向く会社・向かない会社
この構成が効果を出しやすいのは、次のような会社です。
- 定型フォーマットの請求書が月100枚以上ある
- 取引先の上位2割で受領枚数の大半を占めている
- 会計ソフトがファイルの取込(CSV形式)に対応している
逆に、月30枚以下であれば手処理の方が安く済むため、導入をおすすめしません。
帳票の大半が手書きやFAXの場合も、読み取り精度が出ないため向いていません。
会計ソフトが取込に対応していない場合は、先に構成C(RPA併用型)を検討することになります。