紙の請求書や申請書がキャビネットに積み上がっていて、ペーパーレス化しようという話は何度も出るのに、結局今年も紙のまま業務が回っていませんか。
全社で一気に紙をなくそうとして音頭を取ったものの、部署ごとの事情がぶつかって話が止まった経験がある会社も多いはずです。
ペーパーレス化がうまく進む会社と進まない会社の差は、意欲やツールの有無ではなく、最初にどの業務から手をつけるかという順番の設計にあります。
中小企業のペーパーレス化は「全社一斉」でなく1業務の紙から進める
ペーパーレス化を検討する会社の多くは、まず全社の紙業務を洗い出し、統一のルールとツールを決めてから一斉に切り替えようとします。
ところが部署によって扱う書類の種類も関係者の数も違うため、全部門に共通するルールを最初に固めようとすると、調整だけで数か月が過ぎてしまいます。
その間に紙の業務は普段どおり続き、いつの間にかペーパーレス化の話自体が立ち消えになるというのが、よくある失敗の流れです。
進め方の順番を変えると結果は変わります。
全社で足並みをそろえるのではなく、まず1つの業務、たとえば経費精算や請求書の受領といった発生頻度の高い紙業務を1つだけ選び、その業務だけをデータ化する流れを完成させます。
1業務でうまく回った経験があれば、次の業務に広げるときの判断材料が社内にできているため、2つ目以降は迷いなく進められます。
以下では、なぜ紙が残り続けるのかという構造から、実際の進め方、社内への定着のさせ方まで順番に見ていきます。
ペーパーレス化が進まない会社の共通点
ペーパーレス化の話が出ても実行に移らない会社には、いくつか共通する構造があります。
ツールを導入していないから進まないのではなく、導入したあとの運用設計に穴があるために、結局紙に戻ってしまうケースがほとんどです。
例外運用が残ったままになる
多くの会社では、書類の大半は同じ形式で処理できるのに、一部の例外的な書類のために紙の運用全体を残そうとします。
たとえば取引先の一部がどうしても紙の請求書しか発行できない場合、その数社のために経理全体の受領フローを紙前提のまま維持し、データ化できる大多数の取引先の請求書まで紙で扱い続けることになりがちです。
例外は例外として個別に処理する運用を最初から設計しておけば、大半の定型業務はデータ化を進められるのに、例外への対応を先に決めようとするあまり、全体が動かなくなってしまいます。
紙とデータの置き場所が二重になる
ペーパーレス化を始めたはずなのに、スキャンしたデータをフォルダに保存する一方で、原本の紙も念のためファイリングして残しているという会社も少なくありません。
この状態では紙を探す手間とデータを探す手間の両方が発生し、結局「紙を見たほうが早い」という判断に社員が流れてしまいます。
保存義務のある書類を除けば、データを正としてどこか一箇所に集約し、紙は一定期間で処分するというルールを最初に決めておかないと、二重管理のコストがペーパーレス化のメリットを打ち消してしまいます。
経営層や承認者が紙のまま業務を続けている
現場の担当者がデータ入力まで進めても、最終的な承認や決裁の段階で紙の書類とハンコを求められると、結局そこで紙に戻さざるを得なくなります。
稟議や経費精算のフローで、承認者である管理職や経営層がタブレットでの確認を嫌い、印刷して持ってくるよう求めるケースは典型的です。
現場だけがデータ化に前向きでも、承認の入口と出口のどちらかが紙のままであれば、業務全体としては紙の運用のままだと考えたほうが実情に近いです。
だからこそ、ペーパーレス化を進める際は、現場の入力方法だけでなく、承認者が使う画面や操作のしやすさまで含めて設計する必要があります。
紙の書類そのものを減らす前段階として、FAXでのやり取りが多い会社は廃止の進め方を先に整理しておくと、ペーパーレス化との相性がよくなります。

ペーパーレス化の進め方5ステップ
ペーパーレス化が進まない構造を踏まえたうえで、実際にどう進めるかを5つのステップに分けて整理します。
最初から全社展開を狙わず、1業務を完走させることを目的に設計します。
Step1. 紙が発生している業務を洗い出す
経理・総務・営業など部署ごとに、どの業務でどんな紙が発生しているかを一覧にします。
発生頻度、関係者の数、保管義務の有無をあわせて記録しておくと、次のステップで優先順位をつけやすくなります。
Step2. 着手する1業務を判定表で選ぶ
洗い出した業務の中から、最初にデータ化する1業務を選びます。
判断基準は発生頻度・関係者数・保管義務の有無の3点です。
| 判断軸 | 着手しやすい傾向 | 後回しにしやすい傾向 |
|---|---|---|
| 発生頻度 | 週次・月次で繰り返し発生する | 年に数回しか発生しない |
| 関係者数 | 担当者1〜2名で完結する | 複数部署・社外との調整が必要 |
| 保管義務の有無 | 保管義務がないか、保管方法の自由度が高い | 法定保存要件があり形式が指定されている |
発生頻度が高く関係者が少ない業務ほど、ルール変更の影響範囲が小さく、短期間で運用を固めやすい業務です。
逆に保管義務があり形式が指定されている書類は、要件を確認したうえで着手する必要があるため、最初の1本には向きません。
Step3. データ化のルールを1業務分だけ決める
選んだ1業務について、誰がいつどうやってデータ化するか、ファイルの命名や保存場所をどうするかを具体的に決めます。
全社共通のルールを作ろうとせず、その業務に必要な範囲だけをまず固めます。
Step4. 小さく試して運用を固める
決めたルールで実際に1〜2か月運用し、入力の手間や承認のしやすさに問題がないかを確認します。
うまくいかない部分が出てきたら、その場で調整して運用を固めます。
Step5. 次の業務へ順番に広げる
1業務目の運用が安定したら、Step2の判定表を使って次に着手する業務を選び、同じ手順を繰り返します。
1業務ずつ広げることで、全社一斉展開で起きがちな混乱を避けられます。
紙文化に慣れた社員への定着のさせ方
データ化のルールを決めても、長年紙で仕事をしてきた社員がすぐに新しいやり方に切り替えられるとは限りません。
定着させるには、ルールを周知するだけでなく、紙に戻りたくなる理由をひとつずつ取り除いていく必要があります。
紙のほうが早いと感じる最大の理由は、データを探す手間が紙を探す手間より大きく感じられることです。
ファイルの保存場所や命名ルールを統一し、目的の書類が数クリックで見つかる状態を作れれば、紙を探すよりデータを探すほうが早いという体感に変わっていきます。
また、操作に不安がある社員には、最初の数週間だけ隣について一緒に入力するなど、個別のフォローを挟むと定着が早まります。
抵抗が強い社員がいる場合、頭ごなしにルールを守らせようとするのではなく、その社員がどの作業で紙を必要としているかを具体的に聞き取ることが近道です。
たとえば外出先で確認したいだけであれば、スマートフォンやタブレットからの閲覧方法を教えるだけで解決することもあります。
紙でなければ困る理由が具体的な作業のどこにあるのかを特定し、そこだけピンポイントで対応する姿勢のほうが、全員に一律の我慢を求めるよりも定着が早く進みます。
費用とルールの考え方(ツール選定・電子帳簿保存法)
ペーパーレス化を進めるうえで、ツール選定と法的な保存要件の2つは切り離して考える必要があります。
ツール選定については、まず自社の業務規模と関係者数に見合った機能で十分かを確認します。
高機能なツールほど便利に見えますが、機能が多いほど設定や運用のルールも複雑になり、少人数の会社ではかえって使いこなせないまま形骸化することがあります。
最初の1業務で選ぶツールは、必要最低限の機能に絞り、運用が固まってから機能を追加していく順番のほうが失敗しにくいです。
一方、請求書や領収書など税務関係の書類には、電子帳簿保存法にもとづく保存要件が存在します。
要件は書類の種類によって異なり、法改正でも変わるため、ここでは個別の要件内容には立ち入りません。
自社が扱う書類がどの要件に該当するかは、国税庁の公式情報や顧問税理士への確認を先に行ったうえで、データ化の設計に反映してください。
紙の請求書をデータ化する際の具体的な進め方は、次の記事でも詳しく整理しています。

紙の業務、何から手をつければいいか迷っていませんか。
「全社で足並みをそろえようとして話が止まっている」「どの書類から着手すべきか判断できない」「電子帳簿保存法の要件がよくわからないまま止まっている」
少しでも心当たりがあれば、お気軽にご相談ください。
現在、ペーパーレス化の進め方に関するお悩みをお伺いする 無料の個別相談 を実施しています。
中小企業のペーパーレス化でよくある質問
Q. ペーパーレス化にはどのくらいの費用がかかりますか
扱う書類の種類や関係者数によって幅が大きく、一律の金額は示せません。
最初の1業務であれば、既存のクラウドストレージやスプレッドシートの範囲で始められることもあり、まずは小規模な範囲で目安の費用感をつかんでから、必要な機能を追加していく進め方が現実的です。
Q. データ化するとセキュリティ面が不安です
紙のまま保管していても、紛失や第三者の目に触れるリスクは同じようにあります。
アクセス権限の設定やバックアップの仕組みを最初のルール決めの段階に含めておけば、紙の保管よりも管理しやすくなる面もあります。
Q. どの書類から始めるべきですか
Step2の判定表にあるとおり、発生頻度が高く関係者が少なく、保管義務の縛りが緩い書類から着手するのが基本です。
経費精算や社内向けの申請書類は、この条件に当てはまりやすい業務の例です。