「今月からノー残業デーを徹底します」と号令をかけたのに、翌月には元の残業時間に戻っていた、という経験はありませんか。
残業削減の取り組みは多くの会社で一度は実施されますが、時間の上限だけを決めて業務量はそのままにしてしまうと、締め切りに間に合わせるための持ち帰り作業やサービス残業に姿を変えるだけで終わりがちです。
残業を継続的に減らすには、制度やツールを整える前に、まず業務量そのものを減らす手順から手をつける必要があります。以下では、その手順を中心に会社の残業を減らす進め方を整理します。
会社の残業を減らすには制度より先に業務量を減らす
「残業を減らしたい」という経営課題は、規模を問わずどの会社でも一度は出てくるテーマです。
残業を減らそうとするとき、多くの会社がまず手をつけるのはノー残業デーの設定や勤怠システムの導入といった制度面の対策です。
しかしこれらは、残業を生んでいる業務量そのものには手をつけていません。
時間を区切るだけの対策は、仕事が減らないまま働く時間だけを制限することになり、どこかにしわ寄せが行きます。
残業を本当に減らすには、まず今ある業務のうち何をやめられるか、何を簡単にできるか、何を機械に任せられるかを見極め、業務量そのものを減らす作業が先に必要です。
制度や可視化の仕組みは、業務量を減らしたあとに効果を維持するための補助として使うと機能します。
業務量を減らす3つの手順を軸に据え、制度面の対策はそのあとに位置づけて整理していきます。
残業削減の号令が形骸化する構造
「残業を減らそう」という号令が浸透しない会社には、共通した構造があります。
経営側が時間の上限だけを決めて現場に通達すると、現場は仕事の量を変えられないまま、決められた時間内に収めなければならなくなります。
その結果、就業時間内に終わらなかった作業は自宅への持ち帰りや、勤怠システムに反映されないサービス残業という形で処理されるようになり、数字の上では残業が減ったように見えても実態は変わっていません。
この構造が特に起きやすいのが、急に残業をゼロに近づけようとする会社です。
段階を踏まず一気に上限を下げると、現場は業務量を調整する時間的余裕がないまま帳尻合わせを迫られ、記録に残らない形で仕事を続けることになります。
号令が形骸化するのは現場の意識が低いからではなく、時間だけを規制して業務量を放置したまま進めてしまう順序に原因があります。
残業削減を機能させるには、時間の上限を決める前に、その時間内で終えられるだけの業務量に減らす作業が欠かせません。
さらに厄介なのは、持ち帰りやサービス残業は勤怠の記録上には現れないため、経営側からは「削減がうまくいっている」ように見えてしまう点です。
現場の実態と記録の間にずれが生じたまま放置すると、翌年度も同じ号令を繰り返すことになり、社員側は「また今年もか」と本気で取り組まなくなります。
号令を出す前に、まず今の業務量が本当に決めた時間内で終わる量なのかを確認する工程を挟むだけで、この悪循環は防ぎやすくなります。
業務量そのものを減らす3つの手順(廃止・簡素化・自動化)
業務量を減らす方法は、大きく分けて廃止・簡素化・自動化の3つに整理できます。
廃止はその業務自体をやめること、簡素化は手順を減らして同じ結果を短い時間で出すこと、自動化は人がやっていた作業を仕組みに置き換えることを指します。
どの手順を選ぶべきかは、業務ごとに判断基準が異なります。
次の表は、やめても業務に支障がないか、手順があらかじめ決まっているか、間違えたときの影響がどの程度かという3つの観点から、廃止・簡素化・自動化のどれが向いているかを整理したものです。
| 判定観点 | 廃止が向く条件 | 簡素化が向く条件 | 自動化が向く条件 |
|---|---|---|---|
| やめても困らないか | 困らない(惰性で続けている報告や会議) | 一部は必要(全廃はできない) | 必要だが手作業でなくてよい |
| 手順が決まっているか | 問わない | 手順が複雑・毎回判断が入る | 手順が固定・毎回同じ流れ |
| 間違えたときの影響 | 影響を測る前提がそもそも不要 | 中程度(やり直しで対応可) | 低〜中(自動化前提で検証できる) |
この判定表を使う際に見落としやすいのが、やめても困らない業務は実は社内に一定数あるという点です。
長年続けているという理由だけで残っている社内報告や、参加者の大半が発言しない定例会議などは、いざ棚卸しをしてみると想像以上に見つかります。
こうした業務は、始めた当初は必要だったものが、担当者や組織の変化とともに目的を失っていったケースがほとんどで、誰か1人の判断で続けているわけではないぶん、やめる決断も先送りされがちです。
棚卸しの段階で「なぜこの業務があるのか」を1つずつ確認していくと、目的が説明できない業務が想像以上に見つかることに驚く経営者も少なくありません。
定例報告や社内向け資料の作成など、誰のために続けているのか説明できない業務は、まず廃止の候補として洗い出す価値があります。
簡素化は、承認フローが何段階にもわたる稟議や、手作業で転記している資料のように、目的は必要だが手順が過剰になっている業務に向いています。
自動化は、頻度が高く手順が固定されている定型作業、たとえば毎月の集計やデータ入力のような業務で効果が出やすく、間違えたときの影響が小さい業務から着手するとリスクを抑えて進められます。
自動化というと大がかりなシステム投資を思い浮かべがちですが、既存の表計算ソフトに簡単な仕組みを組み込むだけで済む場合も少なくなく、規模の小さい会社でも着手のハードルは思うほど高くありません。
自動化を急ぐあまり事故コストの高い業務から手をつけると、かえって確認作業が増えて残業が減らないこともあるため、判定表の3観点はセットで確認してください。
廃止・簡素化・自動化は、どれか1つだけを選ぶものではありません。
実際には1つの業務の中に、やめられる部分と手順を減らせる部分と機械に任せられる部分が混在していることのほうが多く、業務を分解してから判定表に当てはめる作業が欠かせません。
たとえば月次の報告資料であれば、そもそも読まれていない項目は廃止し、残った項目のうち集計作業は自動化し、体裁を整える部分だけ人が仕上げるという形で、3つの手順を組み合わせて減らしていくのが現実的な進め方です。
制度・可視化・評価の使いどころ
業務量を減らしたあとに効いてくるのが、ノー残業デーや事前申請制のような制度、勤怠を可視化するツール、評価制度の見直しです。
これらは業務量が減った状態を維持するための補助輪であり、業務量を減らす前に導入しても号令止まりで終わってしまいます。
ノー残業デーや残業の事前申請制は、減らした業務量を再び増やさないための歯止めとして機能します。
勤怠を可視化するツールは、誰の業務量が実際にどれくらい重いかを数字で把握できるようにし、負荷が偏っている担当者を早期に見つける役割を果たします。
残業時間の長さそのものを評価する制度が残っていると、業務量を減らした社員が評価上不利になりかねないため、成果や生産性を基準にした評価への見直しもあわせて検討する価値があります。
評価制度の見直しは一朝一夕にはいかないテーマですが、業務量削減の取り組みと同じタイミングで着手を宣言しておくだけでも、社員側の受け止め方は変わってきます。
制度・可視化・評価はどれも、業務量を減らす手順とセットで運用してはじめて効果を発揮する仕組みです。
勤怠可視化のツールを先に導入する会社も多いのですが、業務量が減っていない状態で数字だけを見える化しても、どこが重いかが分かるだけで解決には直結しません。
可視化はあくまで、業務量を減らしたあとにその効果が続いているかを確認するための計測器として位置づけると、投資対効果が見えやすくなります。
残業を減らす進め方4ステップ
ここまでの内容を踏まえ、会社の残業を減らす進め方を4つのステップに整理します。
Step1. 時間の棚卸しをする
まず、部署ごと・担当者ごとに、どの業務にどれくらいの時間がかかっているかを実測で洗い出します。
感覚ではなく実際の作業時間を記録することで、どの業務が残業の主な原因になっているかが見えてきます。

Step2. 減らす対象を選ぶ
洗い出した業務のうち、判定表の観点を使って廃止・簡素化・自動化のどれに当てはまるかを分類し、着手する業務を1つか2つに絞り込みます。
一度に多くの業務を対象にすると、選定と運用の調整だけで時間がかかり、日常業務が回らなくなります。
Step3. 業務量を減らす
選んだ業務について、廃止・簡素化・自動化のいずれかを実行します。
特に月末月初の締め作業など時期が集中する業務は、負荷が偏りやすいため優先して見直す価値があります。

Step4. 減った時間を測り直す
業務量を減らしたあと、実際に作業時間がどれだけ減ったかを再度計測します。
効果が確認できてから制度面の対策を重ね、次の対象業務に着手するという順番を守ることで、号令倒れを防げます。
1つの業務で効果が出た進め方は、部署をまたいで似た業務にも展開できることが多く、4ステップを1周させた経験そのものが次の業務での判断材料になります。
逆に、最初から全部署を対象に一斉展開しようとすると、業務ごとの事情の違いを拾いきれず、結局は制度だけが先行する号令に逆戻りしてしまいます。
4ステップを回すペースにも会社ごとの事情があり、繁忙期を避けて着手時期を選ぶだけでも、現場の受け止め方は大きく変わります。
急いで結果を出そうとするより、1つの業務で確実に成果を積み上げていくほうが、結果として全社での定着は早くなる傾向があります。
残業削減の号令だけが空回りしていませんか。
「制度は作ったのに残業時間が減らない」「持ち帰りやサービス残業が増えているだけかもしれない」「どの業務から手をつければいいか判断できない」
少しでも心当たりがあれば、お気軽にご相談ください。
現在、業務量削減の進め方に関するお悩みをお伺いする 無料の個別相談 を実施しています。
会社の残業削減でよくある質問
Q. 残業を減らすと、残業代が減って社員から不満が出ませんか
業務量を減らさずに残業だけを禁止すると、収入が減った不満が出やすくなります。
業務量そのものを減らして労働時間を短縮したうえで、浮いた時間の一部を賞与や評価に反映する制度とセットで進めると、不満を抑えながら定着させやすくなります。
Q. サービス残業化を防ぐにはどうすればいいですか
時間の上限だけを決めて業務量を放置すると、記録に残らない持ち帰り作業として残業が姿を変えるだけになります。
業務量を先に減らし、その時間内で終えられる状態を作ったうえで勤怠を可視化する仕組みを併用すると、実態と記録のずれを防ぎやすくなります。
Q. 管理職自身の残業はどう扱えばいいですか
管理職は労働時間の管理対象から外れている会社も多く、部下の残業を減らす一方で自身の業務量が増えるケースが見られます。
部下の作業を巻き取ることで自分の残業が膨らんでいる管理職も少なくなく、これでは会社全体の業務量は減っていません。
管理職の業務についても同じ判定基準で廃止・簡素化・自動化を検討し、部下と同じ土俵で業務量を見直す姿勢が必要です。
経営側が管理職の業務量にまで踏み込んで見直す姿勢を見せると、現場も「自分たちだけが我慢させられているわけではない」と感じやすくなり、取り組み全体への協力度合いにも影響します。
管理職の残業を放置したまま部下だけに号令をかける会社は、残業削減の取り組みそのものが説得力を欠いた状態になりやすいという実情も踏まえておく必要があります。
なお、残業時間の上限規制など労務に関わる制度の詳細は法令や労使協定によって定められており、業種や職種によって扱いが異なる部分もあるため、自社の運用については労働基準監督署や社会保険労務士など公式な窓口で確認してください。