Transformerとは?生成AIを動かす仕組みを整理

Transformerとは?生成AIを動かす仕組みを整理

ChatGPTに込み入った相談をしても、文脈を汲んだ答えがすぐに返ってくることに驚く一方で、「中身の仕組みはTransformerです」と言われると言葉だけが浮いてしまいます。

結局何が起きているのか分からないまま使い続けている、そう感じたことはありませんか。

生成AIがここまで自然な文章を作れるようになったのは、この2年ほどでTransformerという仕組みを土台にしたモデルの精度が急速に上がったためです。

この記事では、Transformerを提案した2017年の発表論文の内容をもとに、Transformerとは何かを数式を使わずに整理しています。

具体的には、『次の単語を予測する』『文中の単語同士の関連度を計算する』という2つの動きと、その仕組みを知っていると生成AIのどんな挙動が理解しやすくなるかをまとめました。

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Transformerとは何か?生成AIの土台となる仕組み

Transformerとは、文章の次の単語を予測することで自然な文章を生成する、深層学習モデルの一種です。

2017年にGoogleの研究者らが発表した論文で提案され、ChatGPTやGeminiをはじめとする現在の生成AIを支える中核技術になっています。

出典:Vaswani et al.「Attention Is All You Need」(arXiv:1706.03762、2017年)

ChatGPTのようなサービスの中身は、Transformerの仕組みを使って大量の文章データで学習させた、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)と呼ばれるモデルです。

Transformerが仕組みの名称で、LLMはその仕組みを使って実際に学習させたモデルを指す、という関係で理解すると整理しやすくなります。

Transformerという名前を特定のサービス名だと誤解しやすいですが、Transformer自体は特定の会社や製品の名称ではありません。

生成AIの内部で使われている、文章を処理するための設計の名称です。

TransformerとLLM、そして生成AIという言葉の関係が整理しきれていない場合は、以下で違いを整理しています。

Transformerが登場する前は何が課題だったか?

Transformer登場以前に主流だったRNN(Recurrent Neural Network:再帰型ニューラルネットワーク)は、文章を単語ごとに順番に処理する仕組みでした。

この構造のため、処理速度と長い文章への対応に技術的な限界が残る仕組みでした。

RNNは単語を1つずつ順番に処理する構造上、複数の単語の計算を同時に進めることができず、大量の文章データを学習させるのに時間がかかっていました。

それに加えて、文章が長くなるほど文頭の情報を終盤の処理まで保持しづらいという制約が知られており、冒頭に書かれた前提条件を終盤の生成に反映しづらいことがありました。

たとえば長い契約書を読み込ませて、冒頭の条件と末尾の合意事項の整合性を確認させるような処理は、RNNの構造上もっとも苦手な部類の作業でした。

Transformerは、この2つの制約を『Attention』という仕組みで解決する形で登場しています。

Transformerは文章をどう生成しているか?「次の単語予測」の仕組み

Transformerは、それまでの文章に続く単語を確率的に予測し、それを1語ずつ積み重ねていくことで文章を生成する仕組みです。

入力文からトークン分割、Attention計算、次の単語予測を経て出力に至る流れを示した図

ChatGPTが応答を生成する際は、入力された質問文と、ここまで生成した文章を合わせて読み込み、その続きとして出現する可能性が最も高い単語をひとつ選びます。

選ばれた単語を文章の末尾に追加し、新しくなった文章をふたたび入力として、次の単語をまた予測する、という処理を1語ずつ繰り返すことで、一文・一段落分の応答を組み立てています。

文章が自然に読めるからといって、Transformerが人間のように意味を理解して回答を組み立てているわけではありません。

学習に使った大量の文章データの中で、出現しやすかった単語の並びを、確率にもとづいて選んでいるだけです。

この前提を押さえておくと、次のAttentionの仕組みも理解しやすくなります。

なお、Transformerが実際に処理しているのは単語そのものではなく、トークンと呼ばれる細かい単位です。

トークンの区切り方は以下で整理しています。

文中の単語同士の関連度をどう計算しているか?Attentionの仕組み

Transformerで文中の単語同士がどれだけ関連しているかを数値化しているのが、Attention(アテンション:注意機構)と呼ばれる計算です。

Attentionは1つの処理だけで完結せず、複数の仕組みが組み合わさって成立しています。

ここでは、Attentionが具体的に何を計算しているか、なぜ文章全体を踏まえた予測が可能になるのか、そしてなぜ処理速度が上がるのかを3つに分けて整理します。

Attentionが行っていること(単語同士の関連度計算)

Attentionは、文中のある単語が他のどの単語と強く結びついているかを、数値の重みとして計算する仕組みです。

たとえば「銀行で口座を開設した」という文章では、Attentionは『口座』という単語が『銀行』と強く関連していると判断し、この結びつきを重視して次の単語の予測に反映します。

単語同士の関連度を先に計算してから文章全体の処理を進めるため、離れた位置にある単語同士の関係も見落とされにくくなります。

この関連度の計算こそが、Transformerが文脈を踏まえた回答を作れる理由です。

Self-Attention:同じ文中の単語同士を照合する仕組み

Attentionのうち、同じ文章の中にある単語同士を照合する処理が、Self-Attention(セルフアテンション:自己注意機構)と呼ばれる仕組みです。

文章中のすべての単語が、他のすべての単語との関連度をそれぞれ計算するため、文の前半に出てきた話題が、後半の単語の意味づけにも反映されます。

たとえば「彼はレポートを提出したが、上司はそれを差し戻した」という文章で、『それ』が『レポート』を指していると判断できる材料は、この文章全体の関連度計算から得られたものです。

指示語や省略の多い日本語の文章で前後の関係を踏まえた処理ができるのも、この照合があるためです。

並列処理:処理速度が上がる理由

Transformerは、文中の単語同士の関連度計算を同時並行で処理できる設計になっており、これが処理速度の向上につながっています。

RNNのように単語を1つずつ順番に処理する必要がないため、コンピューターの計算資源を使って複数の単語の関連度計算を同時に進められます。

この並列処理の仕組みが、大量の文章データを使った学習を現実的な時間で終えられるようにした技術的な転換点になりました。

学習にかかる時間が短縮されたことで、より大きなモデルをより多くのデータで学習させることが可能になり、現在の生成AIの精度向上につながっています。

Transformerの仕組みを知ると生成AIのどんな挙動が読めるか?

Transformerの仕組みを理解しておくと、生成AIを業務で使う際に遭遇する次の3つの挙動を、故障だと誤解せず設計上の性質として理解できるようになります。

  • 同じ質問をしても回答が毎回変わる
  • 自信満々に誤った情報を答える
  • 長い文章を読ませると精度が落ちる

これらの挙動は、Transformerが『次に来る可能性が高い単語を確率的に選ぶ』という仕組みで動いている以上、避けられない特性です。

ここでは、この3つの挙動を業務での判断材料になる形で、Transformerの仕組みに紐づけて整理します。

同じ質問でも回答が毎回変わる理由

生成AIに同じ質問を複数回入力すると、結論は同じでも細部の言い回しや構成が毎回少しずつ変わることがあります。

Transformerが次の単語を選ぶ際、最も確率が高い単語だけを機械的に選ぶ設定にはなっていません。

確率が近い複数の候補の中から、ある程度の揺らぎを持たせて選択する設定になっているためです。

実際にChatGPTへ同じ質問を3回入力して比較したところ、結論は同じでも、具体例の順番や言い回しが毎回異なっていました。

業務でこの挙動を踏まえるなら、1回の出力だけで判断を確定させず、必要に応じて複数回生成し内容を見比べる運用が有効です。

自信満々に誤った情報を答える理由

生成AIが事実と異なる情報を、根拠があるかのように断定して答えることがあります。

これはハルシネーション(Hallucination:もっともらしい誤情報を生成する現象)と呼ばれる挙動です。

Transformerは次の単語を選ぶ際、『学習データの中で出現しやすい単語の並びかどうか』を基準にしており、『事実として正しいか』は直接の判定材料にしていないことに起因します。

文章として自然に成立していれば、内容が事実と異なっていても選ばれる可能性があるため、固有名詞や数値、日付を含む回答は生成AIの出力だけで確定させず、出典を確認する運用が必要になります。

このハルシネーションは特定のモデルの欠陥ではなく、確率で次の単語を選ぶTransformerの仕組み自体に由来する特性です。

長い文章を読ませると精度が落ちることがある理由

契約書や議事録のような長い文書をまとめて読み込ませると、要約や指示の反映が粗くなることがあります。

Attentionは文中のすべての単語同士の関連度を計算する仕組みです。

そのため入力する文章が長くなるほど計算する組み合わせの数が急激に増え、モデルが一度に扱える入力の範囲(コンテキストウィンドウ)の使い方が分散しやすくなります。

長い契約書や議事録をまとめて読み込ませて要約させる場合は、章やセクションごとに分割して読み込ませたほうが、指示の反映精度が安定しやすくなります。

分割して処理させても結論の整合性が崩れる場合は、章ごとの要約を作ってから、その要約同士をあらためて統合させる2段階の処理が有効です。

コンテキストウィンドウの仕組みと、モデルごとの違いは以下で整理しています。

自社の業務でどこまで生成AIに任せられるか判断に迷う場合は、 個別相談 で一緒に整理することもできます。

TransformerはChatGPT以外にどこで使われているか?

Transformerは文章生成だけでなく、文章理解、翻訳、画像認識など幅広い分野で使われている汎用的な仕組みです。

  • GPT(Generative Pre-trained Transformer:生成に特化した事前学習済みTransformer)は、Transformerのうち文章を生成する部分を中心に使ったモデルで、ChatGPTの基盤になっています
  • BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、Transformerのうち文章を理解する部分を中心に使ったモデルで、検索エンジンの文章理解や文章分類などに使われています
  • ViT(Vision Transformer)は、画像を小さな断片に分割し、その断片同士の関連度をAttentionで計算することで、画像認識にTransformerの仕組みを応用したモデルです

いずれもTransformerという共通の設計を土台にしながら、扱うデータや処理の向き(生成・理解・画像)に合わせて使い分けられているモデルです。

文章、画像を問わず『データの断片同士の関連度を計算する』という考え方が横断的に使われている点が、Transformerが幅広い分野に応用されている理由になっています。


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よくある質問

Q. TransformerとLLM(大規模言語モデル)は同じ意味ですか?

同じではありません。

Transformerは仕組み(アーキテクチャ)の名称で、LLMはそのTransformerを使って大量のテキストで学習した具体的なモデルを指します。

ChatGPTやGeminiは、Transformerを採用したLLMの実例です。

仕組みと、その仕組みを使って作られた製品は別の階層にあると考えると整理しやすくなります。

Q. Transformerの仕組みを理解していないと生成AIを業務で安全に使えませんか?

理解していなくても日常的な利用は可能です。

ただし本記事で触れた『回答が毎回変わる』『自信満々に誤答することがある』という特性を知っておくと、出力をそのまま使わずに確認する判断がしやすくなります。

重要な業務判断に使う場合は、仕組みそのものの理解より、出力を検証するプロセスを整えるほうが先です。

Q. Transformer以外に押さえておくべき生成AIの仕組みはありますか?

代表的なものに、ファインチューニング(追加学習)とRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)があります。

ファインチューニングはTransformerベースのモデルを特定の業務向けに再学習させる手法で、RAGは社内文書などの外部情報を検索してから、その内容をもとに回答を生成させる手法です。

どちらもTransformerという土台の上で使われている応用技術です。

Q. 画像生成AIにもTransformerは使われていますか?

使われているものと、そうでないものがあります。

Vision TransformerのようにTransformer型で画像を処理するモデルもある一方、拡散モデル(Diffusion Model)という別方式の画像生成AIも広く使われています。

『生成AIならすべてTransformer』とは言い切れず、文章生成の分野で特に主流になっている、というのが実態です。