想定ケース
ここでは、従業員70名の建材卸で経理2名が月末月初に入金消込へ追われているケースを想定します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種・規模 | 建材卸売業・従業員70名 |
| 対象部署 | 経理(担当2名) |
| 対象業務 | 銀行入金明細と請求データの突き合わせ(入金消込) |
お客様の状況と課題
会計はクラウド会計(freeeやマネーフォワードのような、インターネット上で使う会計サービス)を導入済みですが、入金消込だけは自動化されておらず手作業のまま残っています。
取引先は約250社、月の入金件数は約450件。
処理は月末月初の5営業日に集中し、経理2名がほぼ消込に張り付く状態です。
作業は、銀行の入金明細を画面で見ながら請求データと1件ずつ目視で突き合わせるもので、1件あたり平均3分かかります。
時間を取られる一番の要因は振込名義の表記ゆれです。
カナ表記や「カ)」などの略称、屋号違いで機械的に一致せず、担当者の記憶と取引先台帳を頼りに探すことになります。
さらに、複数請求をまとめて振り込む取引先や振込手数料を差し引いて入金する取引先もあり、金額が合わない照合には輪をかけて時間がかかります。
実現したいこと
- 名義と金額が一致する入金は、人手をかけずに消込を終わらせる
- 名義ゆれや金額不一致だけが人の確認に回る状態にする
- 月末月初の張り付き作業をなくし、他の経理業務と並行できるようにする
- 誰がどこまで消し込んだかを2名で共有できるようにする
改修の概要
現状は、銀行の入金明細とクラウド会計上の請求データを、経理担当が1件ずつ目視で突き合わせる運用です。
名義の表記ゆれがあるため1件ごとに取引先を推測しながら探す作業になっており、月末月初の5営業日がこの作業でほぼ埋まっています。
改修後は、入金明細と請求データをGoogle Apps Script(Googleスプレッドシート付属の自動化機能)が自動で突き合わせます。
取引先ごとの振込名義パターンをあらかじめ台帳に登録しておき、名義と金額が完全に一致した入金だけを消込済みとしてクラウド会計へ反映する仕組みです。
一方、名義ゆれ・金額不一致・複数請求の合算入金は自動で消し込まず、候補の取引先を添えた確認画面に残すため、担当者の仕事はこの例外の判断だけになります。
機械が確実に判断できるものだけを機械に任せ、判断が要るものを人に残す設計です。
使用する技術構成
| 役割 | 使用技術 | 選定理由 |
|---|---|---|
| 現場の人が触る部分 | Googleスプレッドシートの確認画面 | 例外だけが並ぶ画面。候補の取引先と不一致の理由を添えて表示し、担当者はボタンで確定するだけ |
| 入金明細の取り込み | クラウド会計の銀行連携機能 | 導入済みのクラウド会計が銀行明細を自動取得済み。この仕組みをそのまま使い、新規の取り込み作業を作らない |
| 裏側の処理(突き合わせ) | Google Apps Script+名義パターン台帳 | 取引先ごとの振込名義のバリエーションを台帳化し、完全一致のみ自動消込。台帳は運用しながら育てる |
| 消込結果の反映 | クラウド会計のAPI連携(API: ソフト同士がデータをやり取りする窓口) | 消込済みデータをクラウド会計へ自動登録。手入力の二度手間を残さない |
効果試算
前提: 人件費単価2,500円/時(事務・経理職の職種別単価・福利厚生込み概算・推定)
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| 1件あたり所要時間 | 平均約3分(目視照合) | 一致分は0分・例外のみ約3分 |
| 対応件数 | 月450件(年5,400件) | 例外 月約90件(全体の2割と仮定・推定) |
| 対応人数 | 2名 | 2名(分担は変わらず負荷が減る) |
| 月間工数 | 約22時間 | 約5時間 |
| 年間人件費換算 | 約66万円 | 約15万円 |
年間削減効果は約51万円(約204時間)と試算しています。
自動一致率8割は名義パターン台帳が育った後の想定で、導入直後はこれより低くなります。
金額に出ない効果: 月末月初の張り付き解消・消込状況の2名共有による属人化の緩和・照合ミスによる入金トラブルの減少
運用コストの目安(構成パターン別・推定)
| 構成 | ランニングコスト(目安) | 向いているケース |
|---|---|---|
| A. クラウド会計の消込オプション活用型 | 月数千円~2万円(上位プラン差額) | 導入済みクラウド会計の標準機能で名義ゆれの大半を吸収できる場合 |
| B. Google Apps Script内製型(本ケースの構成) | 月数千円以内(実質はほぼ保守費のみ) | 名義パターンや消込ルールを自社の取引実態に合わせて細かく作り込みたい場合 |
まずAの標準機能で足りるかを検証し、足りない部分だけをBで補う進め方が無駄がありません。
構築費用は取引先数や消込ルールの複雑さによって変わるため、個別にお見積りします。
リスクと対策
| リスク | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 誤消込 | 別の取引先の入金を誤って消し込むと、督促ミスや請求トラブルに直結する | 自動消込は名義・金額の完全一致のみに限定。曖昧な一致は必ず人の確認画面に回し、機械に推測で消し込ませない |
| 名義パターン台帳の陳腐化 | 取引先の社名変更・口座変更で一致率が下がる | 例外処理の確定時に新パターンを台帳へ登録する運用をワンクリックで済む形にし、台帳更新を作業の一部に組み込む |
| 入金データの取り扱い | 取引先名と金額を含むデータをスプレッドシートで扱う | 閲覧権限を経理2名と管理者に限定。共有リンクの発行を禁止する設定にする |
| 構築者の退職で保守不能 | 内製型の典型的な死に方 | 突き合わせルール・台帳の構造・改修手順のドキュメントを納品物に含める |
導入の進め方と期間の目安
標準的には次の4ステップで、合計2~2.5ヶ月が目安です。
期間は推定で、取引先数と消込ルールの複雑さによって変動します。
Step1. ヒアリング・現状把握(約2週間)
過去3ヶ月分の入金明細と請求データを拝見し、名義ゆれのパターンと例外(合算入金・手数料差引等)の比率を洗い出す。
Step2. 構築(約3週間)
突き合わせ処理・名義パターン台帳・確認画面・クラウド会計への反映を構築し、過去データで一致率を検証する。
Step3. 並行運用(1締めサイクル=約1ヶ月)
従来の目視消込と並行して動かし、自動消込の結果と人の消込結果を全件突き合わせて誤りゼロを確認する。
Step4. 本稼働
並行運用で誤消込ゼロを確認できたら切り替える。
以後は例外確認と台帳育成が日常運用になる。
お客様にお願いすることは、過去の入金明細・請求データのご提供、並行運用期間中の結果突き合わせ、経理ご担当者との週1回・30分程度の打ち合わせの3点です。
業務を止める切り替え作業はありません。
この構成が向く会社・向かない会社
この構成が効果を出しやすいのは、次のような会社です。
- クラウド会計を導入済みで、銀行明細の自動取得ができている
- 月の入金件数が200件以上あり、消込が特定の数日に集中している
- 取引先の大半が繰り返し取引で、名義パターンを台帳化する価値がある
逆に、月の入金が数十件であれば手作業の方が安く済みます。
取引先の入れ替わりが激しく単発取引が大半の場合も、台帳が育たないため一致率が上がらず向いていません。