想定ケース
ここでは、従業員110名の部品製造業で、営業事務2名がFAX受注を基幹システムへ手入力しているケースを想定します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種・規模 | 部品製造業・従業員110名 |
| 対象部署 | 営業事務(担当2名) |
| 対象業務 | FAX・添付PDFで届く注文書の受領~基幹システムへの受注登録 |
お客様の状況と課題
受注は月約800件で、うち4割にあたる約320件がFAXとメール添付のPDFで届きます。
残りは得意先の発注システム経由です。
毎日届くFAX注文書は営業事務2名が確認し、品番・数量・納期を基幹システムへ手入力しており、1件約6分かかるうえ、午前と夕方に入力が集中します。
品番は英数字10桁前後で似た型番が多く、打ち間違いによる誤出荷が年に数回発生。
返品・再出荷の実費に加え、得意先からの信用低下が痛いところです。
しかも誤出荷が起きるたびにダブルチェックの項目が増え、入力にかかる時間は年々延びています。
FAXは紙で出力してから処理しているため、原本の保管・検索も手間のかかる状態です。
実現したいこと
- 品番・数量・納期の手入力をなくし、打ち間違いによる誤出荷を仕組みで防ぐ
- 受注登録の処理時間を短縮し、入力が集中する時間帯の残業を減らす
- FAXの紙出力をやめ、注文書をデータで保管・検索できるようにする
- 誰がどこまで登録したかが見える状態にする
改修の概要
現状は、FAXで届いた注文書を紙で出力し、営業事務が品番・数量・納期を目で読み取って基幹システムへ手入力しています。
似た型番が多いため読み間違い・打ち間違いが起こりやすく、ダブルチェックを挟むと1件約6分かかるのが実情です。
改修後は、FAXをインターネットFAX(紙に出力せず、届いたFAXをそのままデータとして受け取れるサービス)に切り替え、メール添付のPDFと合わせて受け取り口を1箇所に集約します。
届いた注文書はAI-OCR(紙の文字をAIが読み取ってデータ化する技術)が品番・数量・納期を読み取り、確認画面に一覧表示する仕組みです。
担当者は読み取り結果と注文書の画像を並べて確認し、承認ボタンを押すだけで、RPA(パソコン操作を人の代わりに自動で再現するツール)が基幹システムへの登録を実行します。
1件あたりの作業は確認のみの約2分になります。
人の仕事を「入力」から「確認」に変える改修です。
読み取りと登録は自動化し、誤出荷に直結する品番の最終確認だけを人に残します。
また品番は登録済みの品番一覧と自動照合し、一覧にない品番は警告表示されるため、読み間違いがそのまま登録されることはありません。
使用する技術構成
| 役割 | 使用技術 | 選定理由 |
|---|---|---|
| 現場の人が触る部分 | 確認画面(読み取り結果と注文書画像の並列表示) | 目視確認が最速でできる形。ステータス(未確認・確認済・登録済)で進捗を見える化 |
| 注文書の受け取り口 | インターネットFAX+専用メールアドレス | FAXとPDFの受領経路を1箇所に集約。紙出力と原本保管の手間をなくす |
| 裏側の処理(読み取り) | AI-OCR(帳票読み取りに対応したクラウドサービス) | 得意先ごとにレイアウトが違う注文書から品番・数量・納期を抽出 |
| 裏側の処理(照合) | 品番マスタとの自動照合 | 読み取った品番を登録済みの品番一覧と突き合わせ、一致しないものは警告表示 |
| 基幹システムへの登録 | RPA | 基幹システムに外部からデータを直接取り込む口がない場合でも、画面操作の再現で登録できる |
効果試算
前提: 人件費単価2,500円/時(事務職の職種別単価・福利厚生込み概算・推定)
| 項目 | Before | After |
|---|---|---|
| 1件あたり所要時間 | 約6分(手入力+ダブルチェック) | 約2分(確認・承認のみ) |
| 対応件数 | 月約320件(年約3,840件) | 同じ |
| 対応人数 | 2名 | 2名 |
| 月間工数 | 約32時間 | 約11時間 |
| 年間人件費換算 | 約96万円 | 約32万円 |
年間削減効果は約64万円(約256時間)と試算しており、注文書のレイアウト数によって変動します。
このほか金額に出ない効果として、品番照合で誤出荷を構造的に防げること(返品・再出荷の実費と信用低下の回避)、注文書がデータで残り検索しやすくなること、処理状況が見えるようになることがあります。
運用コストの目安(構成パターン別・推定)
| 構成 | ランニングコスト(目安) | 向いているケース |
|---|---|---|
| A. AI-OCR専用サービス+RPA型 | 月4~7万円(OCR利用料+RPAライセンス料) | 帳票の種類が多い。精度とサポートを重視 |
| B. 生成AI読み取り+RPA型 | 月1~3万円(AIの読み取り量に応じた従量制+RPAライセンス料) | 運用コストを抑えたい。読取精度の調整を保守で持てる |
これに加えてインターネットFAXの利用料が月数千円かかり、月320件規模ならどちらも成立しますが、得意先ごとの帳票レイアウトが10種類を超えるならAが安全です。
構築費用は帳票の種類数と基幹システムの仕様によって変わるため、個別にお見積りします。
リスクと対策
| リスク | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 誤読み取りによる誤出荷 | OCRの精度は100%にならない | 全自動にせず人の確認・承認を必ず挟む。品番はマスタ照合で存在チェックし、一致しないものは登録に進めない |
| 受注データの外部送信 | 注文書データをOCRサービスへ送る | 入力内容を学習に使わない設定(学習利用オフ)のサービス・プランを選定し、契約条件を導入時に文書化 |
| 手書き注文書で精度が出ない | 手書きFAXはOCRに乗りにくい | 「手書きは従来通り手入力」と割り切り、例外用ステータスを確認画面に用意 |
| RPAが基幹システムの画面変更で止まる | 画面操作の再現は画面変更に弱い | 基幹システムの更新予定を保守側と共有する体制を作る。止まった場合は従来の手入力に即時戻れる手順を用意 |
| 構築者の退職で保守不能 | 内製型の典型的な死に方 | 構成図・設定値・改修手順のドキュメントを納品物に含める |
導入の進め方と期間の目安
標準的には、ヒアリング、構築、並行運用、本稼働の4ステップで、合計2~3ヶ月が目安です。
期間は推定で、帳票の種類数と基幹システムの仕様によって変動します。
Step1. ヒアリング・現状把握(約2週間)
実際の注文書サンプルを得意先別に拝見し、レイアウトの種類と手書き等の例外パターンを洗い出す。
基幹システムの登録画面もこの段階で確認する。
Step2. 構築(約3~4週間)
受け取り口・読み取り・品番照合・登録の流れを組み上げ、過去の注文書データで読み取り精度を検証する。
Step3. 並行運用(約1ヶ月)
注文書のレイアウトが安定している上位得意先から始め、従来の手入力と並行して動かしながら、読み取り精度と登録結果を突き合わせで確認する。
Step4. 本稼働
問題がなければ本稼働へ切り替える。
手書き等の例外は従来通りの手入力で扱う。
お客様にお願いすることは、過去の注文書サンプルのご提供、基幹システムのテスト用環境(または営業時間外の動作確認時間)のご用意、並行運用期間中の突き合わせ確認の3点です。
業務を止める切り替え作業はありません。
この構成が向く会社・向かない会社
この構成が効果を出しやすいのは、次のような会社です。
- FAX・PDFでの受注が月200件以上あり、当面この受注経路がなくならない
- 得意先の上位2割で受注枚数の大半を占め、帳票レイアウトが安定している
- 品番の打ち間違いによる誤出荷・誤納品を実際に経験している
逆に、FAX受注が月100件以下であれば手入力の方が安く済むため、導入をおすすめしません。
注文書の大半が手書きの場合も読み取り精度が出ないため向いていません。
なお、得意先に発注システムへの移行を交渉できる余地が大きいなら、そちらを先に進める方が根本解決になります。